中外製薬

中外製薬はロシュ傘下に入り、新薬開発パイプラインの充実度は他社の追随を許さぬレベルに達しました。2007年にロシュから導入した分子標的薬剤と呼ばれる抗癌剤アバスチンとタルセバ(肺癌)を国内で発売し、2008年~2009年にかけて米国で中外製薬が開発したヒト化抗体IL-6受容体モノクローナル抗体アクテムラの承認が見込まれます。
中外製薬は、ハーセプチンやリツキサンなどのロシュの抗がん剤をラインアップに加えることで、国内では間違いなくナンバーワンのオンコロジーハウスとなりました。2008年の提携発表時に語られた「win-winの関係」の構築は問題ないとみてよいでしょう。
 しかし、一方で業績は乱高下を繰り返しています。これは、人工透析の包括化による腎性貧血治療剤エポジンの採算低下や、抗インフルエンザ剤タミフルの政府向け備蓄の特需といった外部要因の影響が大きいことは確かです。ただし、コストのガイダンスが甘いことは事実であり、正確性の向上は必須です。
 協和発酵キリンのネスプとの競合も加わり、エポジンの採算低下は避けられそうにないものの、中外製薬にとってはアバスチンとタルセバ、そしてアクテムラがロシュから海外で発売されることで業績拡大期を迎えることになります。しっかりとした業績予想ガイダンスを出してくることを期待しています。
 とくにアクテムラのガイダンスは重要です。アクテムラは世界初のヒト化抗体IL-6受容体モノクローナル抗体として注目度が高まっており、欧米の関節リウマチ治療の最前線で使われる可能性が高いです。
 2011年度にはロシュによる売り上げが15億フランに達する可能性もあり、中外製薬はロシュ向けのアクテムラの製品輸出と売上げに乗じたロイヤルティーを受け取ることになります。アクテムラについては、中外製薬にとって好採算のスキームが組まれていると考えられます。
 ところで、株式市場では最終的にロシュは中外製薬を100%子会社化してしまうのではないかという見方が強まっています。実際2008年にロシュは公開買付で中外製薬の株式を買い増しており、2012年には契約上は100%まで買い増すことが可能となります。
完全子会社化を否定するわけではありませんが、安く買われていしまうという不安心理はあります。こうした不安心理を打ち消すために中外製薬企業価値の向上を重視する姿勢を示し、実践していくことが肝要です。中外製薬は実質的にはロシュ傘下の外資系企業ですが、株式上場を維持する限りは国内外の投資家に注目される存在です。少数株主との対話も大切に維持していかなければなりません。