協和発酵キリン


協和発酵工業が2007年にキリンホールディングスの傘下入りで合意し、2008年4月にキリンファーマの子会社化し、同10月に正式にキリンファーマと合併して、協和発酵キリンが発足しました。
協和発酵キリンのスローガンは、抗体医薬を中核としたワン・アンド・オンリーの医薬品企業への早期脱皮を目指すことです。キリンファーマは、ヒト抗体産生マウス(KMマウス)という、抗体を効率的にマウスで作り出す技術を確立しました。
KMマウス技術と協和発酵工業が開発したポテリジェント技術が融合することにより、ヒト型ポテリジェント抗体をワンステップで作れるようになります。そもそもポテリジェント技術とは、抗体にあるフコースという糖の量を低減させ、抗体がもっている標的細胞を攻撃する作用であるADCC活性を高める技術です。
抗体のADCC活性を高め、その抗体を効率的に作成できるようになれば、抗体医薬のボトルネックの一つである高い製造コストを下げることが可能となります。その意味で協和発酵工業とキリンファーマの合併は理にかなっています。
まだポテリジェント技術を応用した個体医薬は製品化されていません。しかし、協和発酵キリンはポテリジェント技術の自社開発品への応用はもちろん、ポテリジェント技術を他社へ導出して技術導出収入を得ることも戦略として描いています。
すでにグラクソ・スミスクライン武田薬品工業がポテリジェント技術を導入しています。また、協和発酵キリンはスイスのロンザのポテリジェント技術を応用して作った抗体医薬を、ロンザの高生産性バイオ医薬品生産技術を使って生産する権利許諾契約を結びました。
抗体医薬の一貫体制作りは着々と進んでいます。協和発酵キリンのポテリジェント技術を応用した抗がん剤の登場が待たれます。
とはいえ、こうした抗体医薬が業績貢献するのは早くても2012年頃とみられています。それまでは既存事業の医薬品で利益を確保しなければなりません。
主力品である腎性貧血治療剤エスポー(米製品名ネスプ)は、人工透析の包括化と中外製薬エポジンとの競合激化で採算は厳しくなっています。抗アレルギー剤アレロックや降圧剤-狭心症治療剤コニールも、売上高はピークを迎えています。
協和発酵キリンの発足にあたって新規株式発行によるEPS希釈化が起きたことと、会計上だけとはいえキリンファーマとの合併によるのれん代の償却が年間97億円発生します。
つまり、キリンホールディングス傘下入りのためのスキームは株主には不評であったということです。キリンファーマとの合併シナジーは、抗体医薬の開発速度を上げることです。
2008年度は、米国アムジェンへのポテリジェント技術導出による一時金収入1億ドルを確保しましたが、2012年までは抗体医薬の貢献が少ないとすれば、これから2012年までの間に企業価値を高めることが、現経営陣に与えられた当面のテーマでしょう。
中期経営計画の数値目標達成は当然ですが、全臨床段階にある抗体医薬やKMマウス技術の実用化プロジェクトなどが具体的に進展すれば、協和発酵キリンは抗体医薬のメインプレーヤーとしての位置付けが明確になるでしょう。