我が道を行く小野薬品工業


小野薬品工業は、研究開発に「化合物オリエント」という独自の考えをもっています。化合物オリエントとは、糖尿病とか高血圧というように疾病を定めて新薬を開発するのではなく、新薬候補となる新規化合物を探してそれがどのような疾病に効くのかを突き止める方法です。
この手法によると、新規化合物が疾病領域に関係なく数多く出てくるため、画期的な新薬をこれまでに薬剤がなかった疾病の治療薬が生まれる可能性があります。小野薬品工業はこの手法で生理活性物質プロスタグランジン(PG)を世界で初めて化学合成し、これを中心とする研究開発で成果を上げてきました。
主力製品である膵疾患治療剤フオイパンをはじめ、慢性動脈閉塞症治療剤プロスタンディン、膵炎治療剤FOY、汎発性血管内血液凝固症治療剤「FOY500」、好中球エラスターゼ選択的阻害剤エラスポールなど画期性の高い薬剤が開発されたわけです。
小野薬品工業のこうした製品には競合品が少ないことや、PG系には薬価が高い注射剤が多いことなどで、業界内でトップの利益率を誇るようになりました。しかし化合物オリエントのアプローチも試行錯誤の繰り返しであり、化合物と疾病がマッチしなければ開発は直ちに頓挫します。
小野薬品工業の新若開発の成功の確率はここ数年間で大きく低下し、現在の開発工機にある新薬の多くは他社からの導入品です。自社開発品では化合物オリエントによって創薬されたアロサイトが日本でのフェーズⅡ/Ⅲの結末が芳しくなかったため開発中止となったのは痛手です。アロサイトは脳梗塞急性期の脳神経細胞保護作用を持ち、脳梗塞の後遺症を軽減する新薬として注目されていました。
小野薬品工業が販売している既存品の多くは特許期間が切れた長期収載品です。売上高に占める長期収載品の割合はほぼ100%と言ってよいでしょう。長期収載品の薬価はこれまでにも特例的に引き下げられ、将来的にはジェネリック価格並みに引き下げられる可能性もあります。
長期収載品の薬価引き下げは業績を直撃します。それだけではなく、このまま新薬が枯渇すれば小野薬品工業の新薬メーカーとしての立場が危うくなります。小野薬品工業を業界トップの利益率を誇る企業へ押し上げたPGを中心とする化合物オリエントのアプローチは、次のブレークスルーをもたらすのか、それとも限界に近づいたのだろうか。重大な岐路に立っていることは間違いありません。
小野薬品工業のトップである社長は2001年から数えて5人目になります。ほぼ毎年毎に社長が交代していることになり、他の医薬品企業では考えられない人事です。すべてが異色の会社ですが、異色だけで生き残れないことは言うまでもありません。