合併の功罪

 

 

企業文化・人事制度・給与水準など、何もかもが異なる二つの会社が歩み寄り、新しい会社を作っていくという作業は、社員に膨大なストレスをもたらさずにはおかない。各社で合併が行われていた当時、筆者はたまたま組合役員をやらされていたためあちこちの会社の事情を耳にしたが、本当に合併というものは社員にとって過酷なものだ、というのが実感だ。

 

 大企業同士が統合する場合、人員削減はどうしても避けられない。というより、全体として人を減らして効率化するのが合併の狙いでもある。合併を行った会社の多くでは、その前後に数度にわたって早期退職者の募集が行われた。退職金を上積みし、今辞めてもいいという人を募るわけだが、これは当然ながら他でも通用する自信がある、若くて優秀な社員から順に抜けていく。給料の高い中高年層を減らしたいのが経営側の本音だろうが、この世代には転職先が少ないから、そう筒単に辞める者は現れない。

 

 雇用を失うまでに至らなくとも、意に染まない減給・異動などもずいぶん行われた。筆者自身も、あるいは新天地を求めて、あるいは失意のうちに、何人もの才能ある社員が研究の現場を去って行くのを目の当たりにしてきた。こうした「流血」を避けるため、最後には指名解雇ぎりぎりのことを行った企業もあったと聞く。もちろん外資系企業は終身雇用の縛りがないから、ためらいもなく数千人単位の社員をリリースしてのける。

 

 もちろんコンピュータシステムー職場環境など、様々な面で慣れ親しんだ環境を失うデメリットも大きい。海外企業に買収された場合などでは、カルチャーを完全に相手先に合わせなければならないから、この苦労はさらに大きくなる。

 

 末端の二研究員であった筆者には経営陣の苦労は知るよしもないが、当然ながら合併新社のマネジメントは細心の注意を求められるであろうし、派閥抗争・主導権争いなどとも無縁ではすまされなかっただろう。合併によって社名が変わり、長年かけて築き上げたブランドを失うデメリットも決して小さくない。

 

 とはいえこれらは、ある程度合併前から織り込み済みのことではある。そして製薬会社が営利企業である以上、合併の可否は売上・収益などの数字で測られなければならない。この意味では、多くの企業が成功を収めたといっていい。海外メガファーマの多くは最高益を連発したし、第一三共・アステラスなども合併直後に掲げた経営目標をクリアしている。

『医薬品クライシス』佐藤健太郎著より