スターは企業に残らない

 

 ひとつの異様な事実がある。画期的な医薬の創出に中心的な役割を果たした研究者が、何人も会社を中途退職しているという、他の業界では考えられない現象だ。

 

 メバロチン、リビドール、クレストール、プログラフといった超大型医薬の生みの親は、いずれも定年を前に社を去っている。他社に引き抜かれたというのではなく、彼らの移籍先は大学やべンチャー企業だ。他にも、決して会社からよい扱いを受けたわけではなかったと語る有名研究者は少なくない。

 

 彼らは自らの退職埋由について多くを語らない。管理職になって現場を離れるよりも、第一線で研究を続けることを希望して大学に移籍したというような事情ももちろんあるのだろう。一つだけ言えることは、彼らの生み出した新薬に大いなる恩恵を受けたメーカーは、それにふさわしい待遇を与え、社に引き留めようとはしなかったということだ。

 

 画期的新薬を間発する研究者というのは、やはり強烈な個性の主が多い。そして組織というものは、特定の一人の影響力が大きくなりすぎることを好まないものだ。会社の売上の数十%を占める新薬を生み出し、絶対に折れない信念を持ち、上司にも平然と噛みつくような人問など、丁重に去っていただくに越したことはないのかも知れない。

 

 しかしそうした姿を見た若手研究者が、自分も新薬間発に生涯を捧げようと奮い立つものだろうか。深い知識と強烈な信念、優れたリーダーシップを兼ね備えた大功労者を平然とはじき出すような風土と、新薬が生まれにくくなった現状は、全くの無関係ではないだろうと思えるのだ。