長期透析合併症

 

 透析療法は腎臓の働きの一部しか代行していないとはいえ、画期的な治療です。

 

 しかし、一〇年以上の長期間にわたり透析療法を続けてきた結果、予想しなかった合併症がみられるようになりました。その中には透析患者特有のものと、加齢と共に一般にみられるものとがあり、前者として透析アミロイドーシス、腎性骨異栄養症、透析腎がんなどがあり、後者として動脈硬化症があります。

 

 透析アミロイドーシスの解明 透析アミロイドーシスとは蛋白がくっついてしまって作りだす線維状物質であるアミロイドが身体のいろいろな臓器に沈着する病気です。

 

 一九七〇年代にI〇年以上の長期透析患者に「手根管症候群」が目立つようになりました。手根管症候群とは手のしびれ、痛み、指の筋肉の萎縮、肩の痛みなどを起こす症候群で、関係ありません。また透析アミロイドーシスの発症例でとくに濃度が高いわけでもありません。アミロイドーンスの発症はただたんにミクログロブリンの血中への蓄積だけで起こるわけではないと考えられます。

 

 下条らはさらにアミロイド線維形成に関係する物質、アミロイド線維が長く伸びるメカニズム、遺伝子の関与などを明らかにしました。透析に用いる透析膜にも注目し、多施設で五年間の集計を行ない、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)膜を用いると血清めミクログロブリン値が低下することを報告しました。現在ではアミロイドーシスの発症を遅らせたり予防するため、PMMA膜をはじめとする高性能の透析膜が用いられています。

 

 骨の変化 長期透析合併症の一つは骨に生じる変化です。「腎性骨異栄養症」と総称される、さまざまな変化が生じます。腎性骨異栄養症は透析療法が始まる以前の腎機能低下の初期から始まっています。腎機能が低下するとリンの腎臓からの排泄が減少し、血清リッ濃度が上昇します。また、ビタミンDの活性型の濃度は低下します。この両者は腸からのカルシウム吸収を抑え、その結果、血清カルシウム濃度が低下します。高リン血症、ビタミンDの欠乏、血清カルシウム濃度の低下の三者はいずれも副甲状腺ホルモンを増加させ、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こします。

 

 副甲状腺ホルモンの増加、活性型ビタミンDの低下から、腎性骨異栄養症が生じます。

 

 予防は食事のリンを制限すること、ビタミンDの少量を薬剤として補うことですが、リン制限が難しいことは前項で述べたとおりです。

 

 腎がん 透析患者のもうはたらいていない腎臓に生じるがん、腎がんの発症率は一般の人の一〇倍以上と高く、透析年数が長いほど発症率も高くなります。透析療法が長くなると腎臓に嚢胞が多発するようになり、この嚢胞にがんが発生します。

 

 この「透析腎がん」は比較的転移しにくいので、毎年の腹部超音波、CTスキャンによるスクリーテノグ検査で早く発見し、腎臓の摘出術で治療します。一方の腎臓に発見された場合、他方にもがんが発生していることが多く、両側の腎臓をよく調べる必要があります。

 

 動脈硬化 透析患者に動脈硬化が生じやすい理由は、血圧が下がりにくく、高脂血症を伴ないやすいこと、糖尿病などに加え、血管壁にカルシウムへのアミロイド沈着がその原因です。アミロイド沈着は手首にとどまらず全身の骨、関節に広がり、透析アミロイドーシスとなります。

 

 下条文武(新潟大学)らは一九八五年に手根部に沈着したアミロイドの本態は「ミクログロブリン」という蛋白であることを証明しました。それまでは沈着したアミロイドが何に由来するのかわからず、透析アミロイドーシスの対策も立てられません

でした。

 

 ミクログロブリンは腎機能が正常であれば糸球体で濾過された後その九九・九%は尿細管で再吸収され、分解されます。ところが透析患者では腎臓の濾過能力がほとんどないので体内に蓄積します。

 

 血中のミクログロブリン濃度は、透析導入前は糸球体濾過量の低下につれ上昇しますが、透析療法開始後の濃度は透析期間と関一〇倍以上と高く、透析年数が長いほど発症率も高くなります。透析療法が長くなると腎臓に嚢胞が多発するようになり、この嚢胞にがんが発生します。

 

 この「透析腎がん」は比較的転移しにくいので、毎年の腹部超音波、CTスキャンによるスクリーニング検査で早く発見し、腎臓の摘出術で治療します。一方の腎臓に発見された場合、他方にもがんが発生していることが多く、両側の腎臓をよく調べる必要があります。

 

 動脈硬化 透析患者に動脈硬化が生じやすい理由は、血圧が下がりにくく、高脂血症を伴ないやすいこと、糖尿病などに加え、血管壁にカルシウ

 

また透析アミロイドーシスの発症例でとくに濃度が高いわけでもありません。アミロイドーシスの発症はただたんにめミクログロブリンの血中への蓄積だけで起こるわけではないと考えられます。

 

 下条らはさらにアミロイド線維形成に関係する物質、アミロイド線維が長く伸びるメカニズム、遺伝子の関与などを明らかにしました。透析に用いる透析膜にも注目し、多施設で五年間の集計を行ない、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)膜を用いると血清ぬミクログロブリン値が低下することを報告しました。現在ではアミロイドーシスの発症を遅らせたり予防するため、PMMA膜をはじめとする高性能の透析膜が用いられています。

 

 骨の変化 長期透析合併症の一つは骨に生じる変化です。「腎性骨異栄養症」と総称される、さまざまな変化が生じます。腎性骨異栄養症は透析療法が始まる以前の腎機能低下の初期から始まっています。腎機能が低下するとリンの腎臓からの排泄が減少し、血清リン濃度が上昇します。また、ビタミンDの活性型の濃度は低下します。この両者は腸からのカルシウム吸収を抑え、その結果、血清カルシウム濃度が低下します。高リン血症、ビタミンDの欠乏、血清カルシウム濃度の低下の三者はいずれも副甲状腺ホルモンを増加させ、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こします。

 

 副甲状腺ホルモンの増加、活性型ビタミンDの低下から、腎性骨異栄養症が生じます。

 

 予防は食事のリンを制限すること、ビタミンDの少量を薬剤として補うことですが、リン制限が難しいことは前項で述べたとおりです。

 

 腎がん 透析患者のもうはたらいていない腎臓に生じるがん、腎がんの発症率は一般の人のムが溜まる「血管の石灰化」という、透析患者特有の動脈硬化を引き起こすことなどです。これは、透析患者では高リン血症、高カルシウム血症が生じやすく、この二つのイオン濃度の積が高いことと関係しています。血清リン濃度をドげるために、リン結合作用のある炭酸カルシウムや酢酸カルシウムを服用しますが、これらの薬はカルシウムを含んでおり、飲むことで血清カルシウム濃度が上昇してしまうため、最近はカルシウムを含まないリッ吸着薬塩酸セベラマーが登場しています。しかしこの薬は透析患者にしか保険が適用されないので、透析前の状態ではカルシウム製剤しか飲むことができません。

 

 食事のリン制限の工夫を十分に行ない、血清リンを上げないコッをつかんだ状態で透析療法に移行すべきなのですが、現状では食事上のリン制限の工夫が不十分なまま、カルシウムを含んだリン吸着薬に頼る傾向が強く、これが高カルシウム血症副甲状腺機能亢進症といった「悪い経路」に入っていくきっかけとなり、ひいては動脈硬化を進展させます。カルシウム沈着は下肢の太い動脈や心臓を養う冠動脈に生じやすく、冠動脈の石灰化が進むと心筋梗塞による死亡率が高くなります。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より