ピロリ菌と塩の相乗効果でがんを促進

 

 食塩の摂取量が多いと、がんになりやすいのはなぜでしょうか。

 

 胃の場合、高濃度の塩が胃粘膜を障害して、発がん物質が直接胃壁に作用しやすくなるのだと従来言われてきました。しかし、近年注目されているのは、「ピロリ菌」との関係です。

 

 もともと胃液はステーキも溶かすほど強い酸性で、殺菌作川もあります。そのため、胃のなかに細菌は住めないもの、と考えられてきました。ところが一九七九年、オーストラリアのセント・パース病院の病理専門医だったウォーレンと研修医のマーシャルが、偶然も手伝って、胃の中に細菌がいることを発見しました。これが「ヘリコパクター・ピロリ」、つまりピロリ菌だったのです。一一人はこの研究でノーベル賞を受賞しています。 やがて、ピロリ菌が慢性胃炎を起こし、胃潰瘍やトニ指腸潰瘍の原因になることが判明しました。潰瘍はストレスだけで起こるわけではなかったのです。

 

 ピロリ菌に感染していると、胃がんになる率も高いことがわかりました。ピロリ菌感染者は、非感染者に比べ十倍も胃がんになるリスクが高いという報告もあります。一九九四年、WHOはこのピロリ菌をタバコと同じく、第一級発がん物質と規定しました。

 

 また、ピロリ菌感染者は、除菌したほうが胃がんの再発率が低下することも判明しています。日本でも二〇〇〇年秋から、ピロリ菌の除菌療法が保険適用になっています。

 

 ただし、ピロリ菌に感染すれば、みんなが胃がんになるわけではありません。

 

 そこに塩の関与があると、間題が起きるのです。胃液は強い酸ですから、胃の粘膜は粘液によって覆われ、人切に保護されています。ところが、強い塩分はこの粘液を破壊し、胃の粘膜を荒らします。荒れた胃粘膜ではピロリ菌が増殖しやすくなり、増えたピロリ菌こんな食事が、がんになりやすい体を作るがいろいろな毒物でさらに胃壁を荒らす。その結果、遺伝子変異が起こるリスクが増え、がんが発生しやすくなるという悪循環が生まれます。

 

 つまり、塩とピロリ菌がセットになると、相乗して胃壁を荒らし、がんの発生を促すのです。また最近では、ピロリ菌自体が発がん遺伝子を持つことも報告されています。

 

 

 たとえばマウスを使った実験においても、塩、ピロリ菌、発がん剤、それぞれ単独で投与しても胃がんはあまり発生しないのに、ピロリ菌を植えつけたマウスに塩分の濃いエサニ○%)を与えると、胃がんの発生率が四倍も高くなることがわかっています。

 

 ピロリ菌は水道が未整備な場所など、不衛生な環境で感染することがわかっています。日本は先進国の中でも飛び抜けてこのピロリ菌感染者が多く、熟年世代は七~八割が感染しています。

 

 こうした研究から、日本で胃がんが多発したのも、ピロリ菌感染者が多・いことに加えて、塩分の濃い食事をとっていたことが原因だったと言われています。熟年世代の方たちは、なおさら塩分を減らすべきでしょう。 また、塩分の濃い食事は胃の粘膜を荒らすため、体の細胞の中に直接ナトリウムが入り込み、細胞内外のミネラルバランスを崩す可能性もあると予測されます。これについては次の項で詳しくご説明しますが、すでにがんができている人や再発のリスクがある人は、できるだけリスクを減らすべきですし、体をがんになる前の、元の状態に引き戻すという意味で、無塩に近い食生活をすることが勧められるのです。

がん再発を防ぐ完全食:済陽高穂著より