クエン酸回路が、ミネラルバランスの鍵

 

 高血圧の人は、塩分を控えるのが食生活の基本です。そのほかに、バナナやリンゴなどカリウムの多い食品がナトリウムの排泄をうながす、と耳にされたこともおありかと思います(ナトリウムと塩素から食塩がつくられる)。これは、体内の「ミネラルバランス」が非常に重要だからです。

 

 高血圧の場合、カリウムは腎臓でナトリウムが再吸収されるのを抑制し、尿に排泄されるよう促進します。がんの場合は、細胞内外のナトリウムとカリウムの「ミネラルバランス」がとても人切になってきます。

 

 私たちの体をつくっている細胞は、中と外で、ナトリウムとカリウムの濃度が全く異なります。細胞の中(細胞内液)にはカリウムが多く、細胞の外(細胞外液)、つまり血液やリンパ液などにはナトリウムが多く含まれる。この状態が、体にとっては最適なのです。

 

 ナトリウムとカリウムのバランスは、神経の情報伝達や筋肉運動を行うために、とても重要な働きをしています。たとえば、細胞外液にあるカリウムの量が六mEqを超えると、重い不整脈を起こして突然心肺停止してしまうこともあります。また、細胞内のナトリウムの量が多くなると、水をひきこんで膨張して高血圧の原囚になるのみならず、細胞が非常に過敏になり、ちょっとした刺激にも敏感に反応するようになります。

 

 実際に、カリウムとナトリウムのバランスが崩れたらどうなるのでしょう?

 

 細胞内外の濃度差を放置すれば、物質は濃度の高い方から低い方へと流れますから、細胞の外にあるナトリウムは細胞の巾に入ろうとします。逆に、カリウムは細胞の中から外に出るとします。

 

 お正月のおせちをつくるとき、塩漬けのカズノコを水の中にさらして塩抜きをしますね。あ糺は塩分の濃度差を利用したものですが、水にずっとカズノコを浸したままにしておけば、塩分がカズノコから水中に流出してしまい、水もカズノコも同じ塩分濃度になってしまいます。体内でもこれと同じようなことが起こるのです。

 

 こうした事態にならないように、一定のミネラルバランスを保つのに大事な働きをしているのが、「ナトリウム・カリウムポンプ」です。このポンプは、細胞膜を貫通し、細胞の中に入ってきた余分なナトリウムを外にくみ出し、細胞外に逃げたカリウムを細胞の中にひきこんで、一定のバランス維持に努めています。しかし、これは濃度差という自然の流れに逆らって行われる輸送なので、ポンプを働かせるためにはエネルギーが必要てす。

 

 ここで使われるのが、クェン酸回路で産生される、「ATP(アデノシン三リン酸)」というエネルギーで、ATPは、細胞の中の「ミトコンドリア」というエネルギー産生工場で作られているのですが、ATPが十分に作られないと、細胞内外のミネラルバランスが狂い、細胞ががん化するのではないか、という説が近ごろ有力になっています。

 

 富山大学大学院医学薬学研究部の酒井秀紀教授のデータによると、人腸がんの細胞と健康な細胞を比較すると、がん細胞はナトリウムーカリウムポンプの働きが二割がた落ちて

いるといいます。細胞ががん化した原因なのか、あるいは細胞ががん化した結果、ポンプ活性が落ちているのが、そこはまだわからない部分がありますが、いずれにしてもがん1防にミネラルバランスを一定に保つことが重要なのは間違いないでしょう。

 

 パリのソルボンヌ大学付属病院のピエールールスティン医師は、クエン酸回路で働く「コハク酸脱水素酵素」が不足すると、ガングリオーマという腫瘍の一種ができると報告しています。ここに酵素を補充してやると、クエン酸回路が回りだしてガングリオーマが縮小し、やがて消える。この研究結果も、クエン酸回路が障害されるとATPが卜分に生産できなくなり、がんが発生しやすくなるという、ひとつの証左だと言えます。

 

 塩分を過剰に取り続けていると、ナトリウムーカリウムポンプの働きが不充分となり、ミネラルバランスが崩れることもあります。食事に含まれる塩分はできるだけ少ない方がいいのです。そして、このクエン酸回路をよく回すために必要なのが、玄米に合まれるビタミン剛です。

がん再発を防ぐ完全食:済陽高穂著より