臨床現場で薬物治療をになう専門薬剤師が誕生

 かつて、病院勤務の薬剤師は、おもに医師の処方箋に沿って調剤したり薬品を管理したりするなどの仕事をしていたが、近年、このように、薬剤師も積極的に臨床現場に関わるという医療施設が増えてきた。

 

 加賀谷さんの勤める済生会横浜市南部病院では、令国でもいち早く、1980年代から薬剤師が病棟に出向いて患者と対話した。その後、1994年からは糖尿病、2002年からは褥瘡(床ずれ)、緩和ケア、04年からは院内感染、栄養管理、薬物療法モニタリング(薬物治療の効果をより引き上げるため、患者の血液中の薬物濃度を測るなどして、薬物投与設計を個別に立てること)の領域でチーム医療が始まり、薬剤師25人全員が日常の薬剤管理だけでなく、臨床業務にも取り組んでいる。加賀谷さんは言う。

 

 「医療技術が専門化したことから、がん医療などの特定の分野では高度な知識や技能を持つ専門職が求められるようになりました。そこで薬剤師も、車の両輪のひとつとして医師と並びながら薬物治療も担当すべきではないかと考えられるようになったのです」

 

 たとえば、がんの緩和ケアチームでは、早期のうちから闘病中に起こるいろいろな症状を軽減したり消失させたりする。緩和ケア医と一緒に薬剤師も病棟回診し、

▽薬に対する患者の誤解を解き、副作用や飲み方について指導し正しい服用を促す。

▽患者の症状や投与されている抗がん剤を含む薬の副作用を正確に把握する。

▽副作用による症状を軽減、改善する。

▽薬を選ぶときにはその特徴や使い方、相互作用、投与量について医師に助言する。

▽医師とともに薬の投与計画を立てる。

▽必要な薬が市販されていないときは院内で製剤する、などを受け持つ。

 

 「これだけの役割があるにもかかわらず、日本医療機能評価機構の認定病院に認められる緩和ケアの診療加算に薬剤師は含まれていません。つまり、個々の努力はボランティアの扱いになるわけです。これには納得できません」

 

 加賀谷さんは薬剤師の果たす役割の大きさをそう強調する。

 

 このような流れを受けて、日本病院薬剤師会も2005年から専門薬剤師の養成を始めた。専門看護師認定と同じように、ある口疋の条件をクリアした薬剤師が試験を受けるしくみで、がん専門薬剤師が55人、感染制御専門薬剤師が194人誕生した。

『がん闘病とコメディカル』福原麻希著より 定価780円