A)吸湿性医薬品が配合された場合

 

 医薬品には湿潤しやすいものがある.湿潤は湿度および温度に支配される.したがって梅雨期および夏期にはこれらの医薬品が配合された散剤では特にその湿潤化に注意しなければならない.

 

                   水剤とすべきもの:次にあげる医薬品は水剤として調製する.

   塩化アンモニウム,臭化アンモニウム,臭化ナトリウム,フェノバルビター

   ルナトリウム,含糖ペプシン,抱水クロラール,ヨウ化ナトリウムなど.

 

 b)防湿を要するもの:次にあげる医薬品は夏期は特に湿潤しやすいので

 

   各種の防湿法を講じなければならない.

   ジアスターゼ,パンクレアチン,乾燥甲状腺,臭化ヘキサメトニウムなど

 

.防湿法としては,透湿度の低い包装紙を選んで包装したうえで患者には保存法に関する指示を与える.また医師の同意を得たうえで,少量の軽竹無水ケイ酸,リン酸カルシウム,合成ケイ酸アルミニウムなどを加えると,

ある程度湿潤を防ぐことができる.

 

 B)配合により湿潤液化する散剤

 

 混合研和することによって湿潤液化する医薬品は,組み合わせ散剤として蛮化を起こすいずれか一方の医薬品を白色薬包紙に,他方を青色薬包紙に包み,交互に組み合わせて薬袋に入れ,両者を同時に服用するよう指示するとともに患者にも十分注意しなければならない.

 

[処方|] フェノバルビタール

      フェニトイン

      トリメタジオン

      エトトイン

      カルバマゼピン

Phenobarbital

Phenytoin

Trimethadion

Ethotoin

Carbamazepin

 

 

 アスピリンがゲンチアナ・重言故中の炭酸水素十トリウムと反応して水を

生成し,湿潤するので組み合わせ散剤とする.

〈参考〉組み合わせを必要とする医薬品例

    アスピリン……炭酸水素ナトリウム,安息香酸ナトリウムカフェイン,スル

           ピリン,ミグレニン,コリンテオフィリン

    安息香酸ナトリウムカフェイン……アスピリン,スルピリン,ジフェンヒド

           ラミン塩

    グルクロノラクトン……炭酸水素ナトリウム,酸化マグネシウム,安息香酸

           ナトリウムカフェイン,コリンテオフィリン

    アスコルビン酸……炭酸水素ナトリウム,酸化マグネシウム,コリンテオ

           フィリン,鉄剤,y-アミノーβ-ヒドロキシ酪酸製剤√塩酸ヒ

           ドララジン

    イソニアジド………炭酸水素ナトリウム,乳糖,乾燥水酸化アルミニウムゲル

    トリメタジオン……エトトイン

    ピラジナミド……白安イ匕マグネシウム

    レボドパ……酸化マグネシウム,レセルピン,炭酸マグネシウム

    アスパラギン酸塩………炭酸水素ナトリウム,グルクロノラクトン

    L-アスパラギン酸カルシウム……アスコルビン酸

    塩酸ヒドララジン……炭酸水素ナトリウム,アミノフィリン

 

 配合した場合にこれらは,色調に変化を起こすことがある.また,炭酸水素ナトリウムなどのアルカリに上り変化をもたらす.

 

(4)その他

顆粒剤が配合された場合

 粒子径の差異のある顆粒を混合すると均一な混合ができないので,次のような操作を行う.

 

 まず顆粒剤だけを薬包紙上に分割配分し,他の配合散剤は常法により調製し,同じ薬包紙上の別の部分に配分して両者を混ぜ一緒に包装して交付する.

 

(3)湿潤または液化する散剤とその対策

 

 散剤では調製後,服用期間中にその薬剤が湿潤液化したり,はなはだしいときは変色して泥状となる場合がある.この場合,たとえ薬効に支障を生じない場合であっても,外観上の変化が著しいものであれば患者に不安を与えるから,これをそのまま謌剤してはならない.その対策としては,①組み合わせ散剤とする,②剤形を変更する,③適当な防湿方法を講じる,な宮B’方法がある.ただし②は原則として処方医に了解を求める必要がある.

漢方エキス製剤

 漢方薬が現代医療のなかにとり入れられ保険診療でも採用されるようになった.この場合,漢方本来の方式である[随証療法]に基づいて処方されるだけではなく,近代医学の適応症に基づいて用いられることもある.

 

 また,漢方本来の混合生薬の湯液療法ではなく,粉末エキス剤の細粒,顆粒,錠剤などの形で用いられることが多い.この際,漢方製剤の有効成分や薬理作用がまだ十分に解析されていないため,エキス製剤を製造するうえで問題を生じることもある.

 

 現在,製品化されているエキス製剤は,呼吸器,循環器,消化器,腎,内分泌,血液,リウマチ,神経,産婦人科,皮膚科,泌尿器,耳鼻科などの疾患を対象にして約160の方剤の粉末エキス剤が使われている.

 

 A)製剤処方例

 葛根湯エキス

組成

 本品1日量(7.5g)中

 日局カッコン

 日局タイソウ

 日局マオウ

 日局カンゾウ

 

 

 クロフィブラートは軟カプセルであるからカプセル剤だけを別に分包,カプセル付散剤とする.または塩酸ヒドララジン10 mg 錠,デキストラン硫酸ナトリウム300 mg 錠の市販の錠剤を用いれば,パントシンのみ秤量して錠付散剤としてもよい.

 

 錠剤またはカプセル剤を一括して別包とする場合は,ポリエチレン製などの袋を使用し,服用法を明記して薬袋に同封して交付する.さらに薬袋には「散剤1包と錠剤(⊃錠とを同時に服用して下さい)など明記して,服用の際に誤りの起こらないように注意する必要がある.

倍散として市販されている医薬品に対する注意

 医薬品のなかには倍散(10~100倍)でのみ市販され,原木としては入手できないものがある.

 

 医師の処方せんは,従来の慣習からリン酸コデイン,ロートエキスなどの例にみられるように,いずれも処方量は原末の量で記されていることがある.しかし倍散で市販されている医薬品では,倍散の量で処方されることがある.したがって調剤に際しては,それが原末で処方されているか,あるいは倍散で処方されているかを正しく判断する必要がある.

 

 次に例示するように,医薬IWIの用量の輻の広いものではまったく判断に苦しむ場合がある.このような場合には医師に照会する必要がある.

 

  [処方|] ネオレスタミンマレイン酸クロルフェニラミン塩)

                 Neorestamin (maleate)  o.oig

               (またはネオレスタミン散   )..0g)

        フェナセチン   Phenacetin         1.0g

        ロートエキス   Scopol. Ext.       0.06g

          以上1日量 分3包

               (適応:感胃)

  [処方2] ネオレスタミン  Neorestamin       0.4g

        フェナセチン   Phenacetin         l.Og

        rJ-トエキス   Scopol. Ext.       0.06g

          以上1日量 分3包

               (適応:感冒

 

 クロルフェニラミン塩の薬用量は1囗4~24 mgであるが,患者によって有効性にははなはだ相違があり,1日量3~40 mg の輻がある.処方1はネオレスタミン1囗量10 mg と判断できるが,処方2は単にネオレスタミンと記されているだけで,クロルフェニラミン塩の100倍散として0.4gか, 40 mgとすべきところを10倍散と間違えて記載したのか判然としない.

 

 [処方3] フェノバルビタール Phenobarbital

クロナゼパム

パントシン

Clonazepam

Pantosin

Phenytoin

 

 ハントシン(一般名パンテチンpantethine)の薬用量は,1囗30~600 mgである.パントシン散は5倍散であるので,単にパントシンと処方されたときは500 mg 必要なのか,5倍散として0-5 gすなわち100 mg 必要なのか,処方3は判断に苦しむ処方である.このような例が抗ヒスタミン薬,抗てんかん薬,自律神経遮断薬,ビタミンなどにしばしばみられる.

自動包装機

 分割,包装を機械化したものが白動包装機である.現在市販されている機種は多数あるが各機種とも一長一短があり,その目的によって選択する必要がある.例えば,主として同じ内容の薬剤を連続して行う予製剤を分割,包装する場合か,または主として異なった内容の薬剤を少量ずつ分包するために使用する場合かによって機種を選ぶ.

 

 自動包装機の機種には種々あるが,次のように大別することができる.

  ①自動分割包装

  ②手分割自動包装

  ③その他

 

 E)包装材質

 

 散剤を包装する材質にはプラスチックフィルムと紙製があり,前者が多用されている.

 

*3分包した散剤の重量が規準化された正規分布をするものとして,全休の分包剤の90%が平均重量値の±10%に入る範囲は,変動係数で6.08≒6.1%である.

 (例)セロポリ,ポリエチレン,ポリエチレンラミネート,グラシン,模

   造紙,パラフィン紙など.

使用目的により包装材質を次のように区別する.

 

 (例)頓     服:青色(赤色紙は外用に使用する)

   組み合わせ散剤:自色と青色を組み合わせて用いる.

   し  や  光:上記の紙の内側に赤色紙を重ねて包む.

[2]倍   散

 

 薬用量の少ない医薬品は辿宜倍散を予製しておくと毒薬天びんによらず,調剤用大びんで迅速正確に秤量でき,しかも混合が容易で均質にしやすいので便利である.

 

 倍散の調製上もっとも注意すべきことは,主薬を賦形剤中に均等に混和することであり,特に毒劇薬の場合は混和を確認するため少量の色素を加える.賦形剤には通常,乳糖またはデンプン,または乳糖とデンプンの混合物を用いる.乳糖は水に溶けるため水剤にも使用できる.しかし,自動分包機への適合性などの面からは,粉末乳糖のみを賦形剤に用いるよりも複合乳糖を用いる方が取り扱いにすぐれている.

 

 倍散の毒劇薬としての取り扱いは薬事法薬事法施行規則第52条別表第3)の定めるところによる.

 

(1)名称および表示

 

    薬品名○倍散  または  ○%一薬品名散

 

のように倍散とされる薬剤の前にハイフン」を付して明示することもある.

 

(2)種類

 A)通常,10倍散で使用するもの

    アヘン末

    イソニアジド

    塩酸エフェドリン

    塩酸コカイン

    塩酸パパベリン

    塩酸ヒドララジン

    澀一塩酸メチルエフェドリン

    フェノバルビタール

    ノーメントール, dl-メントール

    リン酸コデイン

 B)通常, 100倍散で使用するもの

    塩酸チアミン

    塩酸モルヒネ*4

    シアゼパム

    ニトラゼパム

    プレドニゾロン

 C)通常, 1000倍散で使用するもの

    クロナゼパム

    臭化水素酸スコポラミン’4

    硝酸ストリキニーネ’4

    ジゴキシン

 D)通常, 10000倍散で使用するもの

    ジギトキシン など

 E)その他

塩酸モルヒネ

乾燥甲状腺

クロルジアゼポキシド

ジフェンヒドラミン

Uづクロロチアジド

フェニトイン

フェノバリン

リン酸ジヒドロコデイン

ロートエキス など

ペルフェナジン

ば/-マイレン酸クロルフェニラミン

硫酸アトロピン’4

硫酸テルブタリン など

デキサメタゾン

硫酸アトロピン’4

レセルピン など

アスコルビン酸散(50~100 mg in l g)

硝酸チアミン散[5~]0 mg in l g)

リボフラビン散(2~10 mg in l g)

塩化リゾチーム散(10~20 mg in l g)

*4これらの原薬品はすべて毒薬であるが,倍散としたものは,劇薬である.劇薬

 を倍散としたものは,大部分劇薬である.綻剤の場合は,その含量によって異

 なる.詳細は薬事法施行規則第52条別表第3を参照されたい.

                          田散  剤47

    フロセミド散(40 mg in l g)

    リン酸ジヒドロコデイン散(50~100 mg in l g)

    カルバマゼピン2倍散

    グルタチオン5倍散

    ジピリダモール8倍散

    ウルソデオキシコール酸20倍散

    塩化ベタネコール20倍散

    メトクロプラミド50倍散

    臭化ネオスチグミン200倍散 など

(3)着色

 A)原料医薬品が有色の場合

  着色しない.

 B)原料医薬品が無色の場合

  毒薬は青色,劇薬は赤色に着色する.

  原薬が毒薬の場合は希釈して倍散としても青色であることが明らかなよ

 うな濃度で添加する.また,劇薬も同じ方法で赤色とする.

(4)着色料’5

 青 色(i):食用青色1号(ブリリアントブルー・FCF)アルミニウムレー

      キ

 赤 色o:食用赤色3号(エリスロシン)アルミニウムレーキ

(5)着色濃度

 着色濃度は次の標準により常に一定となるようにするバ10倍散, 100倍散,

1000倍散などを着色濃度によって区別することはしない.)

 食用青色1号アルミニウムレーキ  0.002%

 食用赤色3号アルミニウムレーキ  0.001%

*5昭和丑年8月31日厚生省令第30号および昭和42年厚生省令第3号参照.食用色

 素アルミニウムレーキの色素背量は次の規格のものとする.

  •  食用青色1号アルミニウムレーキ(11~16%)
  •  食用赤色2号アルミニウムレーキ(16~21%)

 

分割包装

 

 散剤は混和した後,処方せん記載の服用回数に自動包装機を用いて分割,包装する.包数が多くなると均等に分割することがむずかしくなるので,正確を期するためにときどき秤量して検査する必要がある.また,目測法および合匙法などの手分割により薬包紙上に均等に配分して手分包する方法もある.

 

 散剤は,吸湿によって変化を起こすため,包装には十分注意しなければならない.通常,重量誤差は分包したものでは重量偏差が変動係数として6.1%以下恬全量では2%以下であることがのぞましい.

 

 手分割による薬包紙の包み方には種々の方法があり,それぞれ特徴があるが,わが国では通常5角形に包む.いずれにしても医薬品がたやすくこぼれでないように包まなければならない.

 

 調剤の終わった散剤は再び処方せんと照合して内容および包数を鑑査し,誤りのないことを確かめてから交付する.

混和

 

 通常,18号(850μm)粉末または微粒状とし,他の医薬品を加えて均一になるまで混和する.なお量の多い医薬品を混和する場合には,1~2回飾過した後,混和するとよい.また毒劇薬などで量のきわめて少ないものは,はしめ賦形剤または他の配合薬を少量ずつ加えて混和し,全量を均等にする.すべて混和に際しては乳鉢の壁に付着した医薬品は薬匙で適宜かき落として混和する.

 

 /-メントール,ハッカ油,カストロピロールなどのような臭気の強いものや,メサフイリン,ブロチン,リボフラビン,ダイオウなどの色のついた医薬品を研和したときは,臭気や色が次の調剤薬に移るのを避けるため別の乳鉢,乳棒を用いる.

 

 次の調剤に移る場合は,前に使用した乳鉢,乳棒などに医薬品が残り汚れを起こさないよう汚染に十分注意することが大切である.そのためには水洗,乾燥して使用するよう心がけるべきである.一例を示すと下記のような医薬品は特に注意しなければならない.

 

 a)苦味の強い医薬品に用いたあと:クロルジアゼポキシドなど

 

 b)特異体質患者に調剤を行うとき:ペニシリン系医薬品,サルファ剤などで特異の反応を示す場合

 

新品の磁製乳鉢と乳棒の使用上の注意:

 

 新品の碚製乳鉢と乳棒は使用前に紙ヤスリで粗面をすりつぶしたのち,空のままで乳鉢と乳棒をすり合わせ,粗面を磨滅しておくべきである.