がんになるというストレス

 

 悪玉菌が腸の中で増えると、有害物質を産生したり、毒素を出して下痢や便秘を起こしたり、さまざまな病気の引き金になります。悪玉菌はさらに、ニトロソアミンや二次胆汁酸など強力な発がん物質を作りだします。胃炎や胆石など消化器の病気になると、悪玉菌が増え、その産生する有毒物質の影響で炎症性の腸の病気や人腸がんが発生することが知られています。

 

 胆汁酸とは、肝臓で作られる胆汁の成分で、十一。指腸に排出されて脂肪の消化に働きます。これは一次胆汁酸と呼ばれるもので、グリシンタウリンなどと結びつく(グルクロン酸抱含といいます)ことで毒性を封じ込めています。脂肪の消化のために働いたあと、この一次胆汁酸は小腸から吸収されて肝臓に戻り、いわばリサイクルされるのですが、その。部が人腸に流出します。

 

 このリサイクルに対し、悪玉菌はβグルクロナーゼという酵素を使って、グルクロン酸抱含を引き剥がしてしまうのです。これが二次胆汁酸です。剥き出しになった胆汁酸は、強力な発がん性をもちます。肉食や脂肪の多い食事をしていると、胆汁酸がどんどん分泌されますが、抱含されたままリサイクルされている分にはいいのですが、悪玉菌がいると強力な発がん物質に変わり腸壁を刺激して、大腸がんを増やすのです。

 

 老化やストレス、肉食などによって、現代人の腸の中では悪玉菌が増えやすい環境になっています。がんになった患者さんの場含は、がんという病気からくるストレスもまた軽視できないのです。

 

 善玉菌はこれとは逆に、がんを抑える方向に働きます。その代表が乳酸菌。乳酸菌とは、ビフィズス菌アシドフィルス菌、ラクトバチラス、ブルガリア菌など乳酸を産生する腸内細菌の総称です。

 

 乳酸菌を補充し、腸内で善玉菌を優位にするために、私が勧めているのがヨーグルトです。

 

 以前は、乳酸菌は胃酸で殺されてしまうから、食べ物としてとっても腸の中まで届かないといわれました。しかし最近は加工技術が発達し、ヨーグルトや乳酸菌飲料で乳酸菌をとって、腸の中まで生きたまま届くようになっています。

 

 一方、面白いことに、乳酸菌は乍きていても死んでいても免疫を活性化することがわかりました。乳酸菌の有効成分は細菌の壁の部分にあるので、その働きは菌が生きていても死んでいても変わらないのです。

 

 腸の中というのは、体内で一番、免疫細胞が多く集まっているところでもあります。腸は食物と一緒に、外から病原菌や有害物質が入りやすいので、免疫細胞も多く配備されているのですね。

 

 腸内細菌がバランスよく存在すると、こうした免疫系の細胞を活性化し免疫力を増強することがわかっています。乳酸菌などの善玉菌は、腸の「パイエル板」という免疫器官を剌激してリンパ球を増やし、免疫を増強します。さらに、乳酸菌が増殖したり、その菌体成分(死んだ乳酸菌の成分)で刺激されると、「インターフェロン」という生理活性物質が増え、ナチュラルキラー細胞が増加します。

 

 ナチュラルキラー細胞は、免疫の中でもがん細胞など異常な細胞を見つけて攻撃を加える細胞です。たとえば、乳酸菌を四週間とっていると、末梢の血液中のインターフェロンαの産生能力が三倍にも向上していた、という研究報告もあります。乳酸菌が、進行がんの患者さんのインターフェロンの低下に歯止めをかけ、がんの勢いをそいだり、縮小させることも十分に考えられるのです。

がん再発を防ぐ完全食:済陽高穂著より