医薬品産業の未来はバラ色

 

そう信じた人は多かった。筆者の手元のノートには、当時(九〇年代中盤)バイオテクノロジー分野で大きな影響力を誇った、あるジャーナリストの講演記録が残っている。

 

 彼は自信満々に、医薬品産業のバラ色の未来を説いた。今後十五年で、ゲノム創薬をはじめとする技術は大きく進歩し、医薬品創出の技術は完成に至る。あらゆる疾患に対応する薬が自在に生み出せるようになり、患者にとってはすばらしい時代が訪れる。どこがその技術を間発し、その権利を手に入れるか、この十五年が最後の勝負の時になるだろうと

 

 それからまさに十五年が経とうとしている現在、状況は彼の予想と正反対になろうとしている。一九九六年をピークに医薬品の創出点数は減り続け、その時期に登場したブロックバスターは次々と特許切れを迎えようとしている。

 

 例えば武川薬品の主万商品のうち、二〇〇七年に四〇〇七億円を売り上げたタケプロッ(抗潰瘍薬)は二〇〇九年十一月に、同じく三九六二億円を稼ぎ出したアクトス(糖尿病治療薬)は2011年。月に、二ニニー億円のブロプレス(降圧剤)は二〇二二年六月に米国での特許が失効となる。同礼からは九九年以来大型新薬が登場しておらず、この三剤合計一兆円の穴を埋め合わせる目途は立っていない。