分子生物学


高等動植物のみならず、細菌にも感染するウイルスがあります。このウイルスを(バクテリオ)ファージといいます。ファージ感染の解析とファージ核酸の研究が分子生物学の発展に大きな貢献をしたことはよく知られています。一般にある供与菌でファージを増殖させ、それを受容菌に感染させると、もともと供与菌がもっていた遺伝的性質を受容菌が獲得することがあります。これを形質導入といいます。ブドウ球菌や連鎖球菌などグラム陽性球菌では、形質導入が染色体性抗菌剤耐性やRプラスミドの伝播に重要な役割を果たしていると考えられています。
例えば、大腸菌K12株について、F因子と呼ばれる性因子を細胞質内で染色体に組み込まれていない状態で持っている菌(Fプラス菌、供与菌)と、もっていない菌(Fマイナス菌、受容菌)を混合培養すると、供与菌から受容菌にF因子が伝達され、さらに低頻度ながら供与菌の染色体の一部が伝達されて、受容菌の染色体との間に組み換えが起こり、染色体遺伝子の組み換え体が作り出されます。Rプラスミドの伝達のメカニズムも同じです。
RプラスミドやRプラスミドをもった菌は、生物学的には雄に相当します。その意味で、このような能力をもったプラスミドを性因子と呼んでいます。面白いですよね。グラム陰性桿菌における体制の獲得は、主としてRプラスミドの伝達によって行われます。