米国の医療サービスが景気に左右されやすい理由

米国の公的医療保険制度は、大きくメディケアとメディケイドに分けられます。
メディケアは、連邦政府が管轄する高齢者を対象とした公的保険で、約4000万人が加入しています。加入資格は、社会保険や年金などの受給資格のある65歳以上の高齢者となっています。一般的に、高齢者のための公的医療保険という位置づけです。
メディケアはその種類によって、パートA、B、C、Dに分類されています。特にパートDは、2003年のメディケア処方箋薬改善近代化法(通称MMA)によって立法化され、2006年より施行されました。これまでメディケアでカバーされていなかった処方箋薬の費用を、パートDに加入すれば一定の自己負担で賄えるようになりました。
実際に、パートDが施行された2006年は、新規処方箋発行枚数が着実に増加し、医薬品業界にとってはフォローの風となりました。
メディケイドは、一定の所得以下という条件で医療弱者や障害者、高齢者が対象となりますが、一般的には低所得者相のための公的保険という位置づけです。加入者は5000万人に迫ると推定されます。メディケイドは各州レベルで管理され、州政府と連邦政府資金によって運営されています。
民間医療保険は、保険会社が提供するマネージドケアと呼ばれるタイプが最も一般的です。米国民の4分の3が民間医療保険に加入していると言われますが、毎年の医療支出の上昇と保険料の増加は家計を圧迫しています。2008年に米国の平均的家庭が実際に支払った医療保険料は、年間1万2860ドルと2000年水準から倍増していると推計されています。
マネージドケアは明確な定義はありませんが、保険会社が加入者と医療機関の仲介役となり提供される医療サービスと、その対価である保険料を決める制度です。マネージドケアの中も、HMO(health maintenance organization/健康維持機構)やPPO(preferred provider organization/特約医療機構)、POS(ponint of seervice plan/受診時選択プラン)などに分かれます。
HMOに加入すると保険会社が指定した医療機関でしか医療サービスを受けられず、使える処方箋も限定されます。専門医の受診なども制限される一方、加入するための保険料は低く抑えられる仕組みです。
また、HMOよりも受診の選択肢が広いのがPPOやPOSですが、そのために割増料金や自己負担の増加が発生するしくみです。健康もお金次第ということです。
マネージド・ケアの大きな部分として、主に大手の民間企業は一括して保険会社と契約して従業員のための医療保険を提供するケースがあります。こうした医療保険の提供や一部負担は、企業業績が好調なときは従業員確保のための有効な手段です。反面、景気減速時などに解雇された従業員とその家族は、医療保険を失うリスクを負っています。米国の医療には景気連動型の部分が大きい理由の一つです。