アリセプトの新しい剤形


エーザイは2007年に米国のバイオベンチャー、モルフォテックとMGIファーマを買収し、オンコロジー(腫瘍学)領域を大幅に強化しました。両者の買収はエーザイが1980年代から米国で取り組んできた抗がん剤の研究開発が、いよいよ実戦段階に入ったことを意味します。
モルフォテックのヒト抗体技術とMGIファーマの抗がん剤フランチャイズを取組むことで、エーザイのオンコロジーにおける実力は日本企業の中では間違いなくトップの座を占めるようになりました。あとは売上高1000億円レベルの抗がん剤を最低でも1つ、500億円クラスを3つくらいは揃えたいところです。長らく注力してきた自社開発品の「E7389」等の早期承認取得によって好結果を出すだけです。
抗がん剤に限らず、エーザイの自社開発品の新薬申請および承認スケジュールは当初から後退している点は気がかりです。例えば新薬群の中で抗癌剤「E7070」や敗血症治療剤「E5564」、中枢神経領域疾患のAMPA受容体拮抗剤「E2007」等の開発が不成功に終わると、エーザイの研究開発パイプラインのフェーズⅡ段階にある新薬のPOC(創薬概念の検証/proof of concept)そのものが問われる局面となります。
エーザイの最大の課題は主力製品のアルツハイマー認知症治療剤アリセプトのプロダクト・ライフサイクルマネジメント(PLCM)と後継品の開発です。
2007年度のアリセプトのグローバル売上高は2910億円、そのうち最大市場の米国での売上げは1869億円です。
アリセプトエーザイの売上高の40%を占める収益柱です。エーザイは、アリセプトの発売当初から米ファイザーとグローバル市場で、ほぼ全面的に販売協定を結んでいます。このアリセプトの物質特許が、最大市場の米国で2010年11月に満了します。
ジェネリックの参入が確実視されるため、アリセプトのプロダクト・ライフサイクルマネジメントとして小児ダウン症候群への適応拡大、そして新たな剤形としてテープ状のパッチ型製剤や液剤、ゼリー剤(徐放性製剤)を開発することが急務となっています。
特にパッチ剤の開発は最重要プロジェクトであり、開発の成否がエーザイの2011年度以降の業績を起きく左右することになります。後継品としてアリセプトとは作用メカニズムが異なるγ・セレクターゼモジュレーター「E2012」を開発していますが、開発はまだ緒についた段階です。