血液透析か腹膜透析か

 

 血液透析と腹膜透析の比較を示しました。働き盛りで動務のリズムを変えたくない人には腹膜透析が向いています。

 

 保存期腎不全の治療に熱心に取り組んできた人も、外来に通院するのは月一回で、患者さん白身の自己管理の部分が多い腹膜透析の方が向いています。主治医が腎臓専門医の場合には腹膜透析に関する説明があり、腹膜透析選択につながったと考えられます。血液透析と腹膜透析との二つの透析法があることを知っていた人は五〇%で、血液透析が開始されてから腹膜透析の存在をはじめて知った人が三〇%でした。

 

 腹膜透析が少ない理由は、まず行なえる施設が少なく、腹膜透析を選びたくても選べないことがあげられます。またたとえ都市部のように腹膜透析を行なえる施設がある地域でも、透析療法の説明の際、腹膜透析という別の透析療法があることが知らされず、血液透析を始めてしまった患者さんもいます。腹膜透析では腹膜炎という合併症があること、さらに被嚢性腹膜硬化症という、重い合併症が生じる可能性も高いことなどが、腹膜透析でなく血液透析を選ぶ理由になるようです。

 

 腹膜透析の医療費は二〇〇六年四月現在、月に三六万円で血液透析より高く設定されています。腹膜透析での医療資源の主なものは透析液で、血液透析では透析液に加えて透析膜、医療スタッフの人件費と圧倒的にコストがかかるにもかかわらず、腹膜透析の医療費が高く設定されているのは、厚生労働省の腹膜透析への誘導政策によると思われます。しかし、その意図とは逆に腹膜透析の比率は一九九〇年代は五%台だったものがしだいに減少しているのです。腹膜透析が減少している理由として、以下のものがあります。

 

(I)腹膜透析患者数そのものは微増しているが、血液透析患者の増加率が高く、両者の比率でみると腹膜透析は減少している、(2)透析導人年齢が高齢化しており、技術を習得できる患者さんが減少している、(3)導人の原因となる腎臓病として糖尿病性腎症が増えているが、腹膜透析は糖尿病を悪化させるという説があり、糖尿病性腎症に腹膜透析を適用する率は低い。

 

 しかし国家レベルで考えれば腹膜透析の増加は望ましく、そのための施策の整備が必要です。

 

 透析療法に大きく分けて二つの方法があること、各々の長所と短所、五年後一〇年後の予測などについて、主治医は透析を始める三か月前には患者さんに詳しく説明する必要があります。また患者さんもすべて主治医まかせではなく、透析療法の解説書を読んで透析療法についての知識を十分に蓄えておく必要があります。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より