動物性脂肪は、免疫力を低下させる

 

 動物性脂肪もまた、がんの人ができるだけ避けるべき食品です。豚や牛の肉にはもちろん、この動物性脂肪も含まれています。

 

 現在の栄養学では、従来のように、脂肪を単純に動物性か植物性かで二分して考えてはおりません。現在の分類は、まず飽和脂肪酸不飽和脂肪酸か、そして不飽和脂肪酸の中でもn-3系かn‘6系かが間題です。これについては第四章の実践編で詳しくお話しすることにします。私が禁止する四足歩行の動物性脂肪は飽和脂肪酸、魚の油は不飽和脂肪酸で、性質がまったく異なります。

 

 飽和脂肪酸を常にとっていると、体内で「LDLコレステロール」が増えることがわかっています。動脈硬化の元凶といわれるコレステロールですが、LDLコレステロールそのものが悪いわけではないのです。

 

 血液中のコレステロールは、リポタンパクという運び屋に乗って移動しています。この運び屋には、LDL(低比重リポタンパク)とHDL(高比重リポタンパク)という二種類があって、LDLに乗ったコレステロールが「LDLコレステロール」です。

 

 この二つの運び屋は、まったく反対の働きをしています。肝臓から体のすみずみの細胞にまでコレステロールを運ぶのがLDL、動脈壁にたまったコレステロールを抜き取って体のすみずみから肝臓に回収してくるのがHDLです。それで、LDLコレステロールは悪玉で、HDLに乗ったコレステロールは善玉とI言われるわけです。

 

 しかし、コレステロールもホルモンや細胞膜などを作る大事な材料ですから、それを送り届ける運び屋・LDL自体は、決して悪者ではありません。ただ、LDLコレステロールが多くなりすぎると、血液の中にたまって血管の壁の中に簡単に入り込むようになります。そして、血管の壁の中で活性酸素によって酸化されるやいなや性格が豹変し、強い毒性をもつ「酸化LDL」に変わります。

 

 そうした場合でも、人間の体にはすぐれた防衛機能が備かっていますから、すぐに「マクロファージ」という免疫細胞の戦闘部隊を送りこみます。マクロファージは、貪食細胞とも呼ばれ、酸化LDLを次々と収り込み、消していく。このとき酸化していないLDLは取り込みません。酸化LDLを見つけて際限なく体内に取り込んでいくと、マクロファージはどんどん膨らんでコレステロールで一杯になります(これが「泡沫細胞」です)。そして、最後には破裂してしまう。いわば、マクロファージは自らを犠牲にして、酸化LDLを退治してくれるのです。

 

 ところが、ばんばんに膨れあがった泡沫細胞や破裂したあとの細胞カス(崩壊産物)は、動脈硬化の病巣になってしまいます。脳梗塞心筋梗塞は「粥状硬化」といわれるタイプの動脈硬化が原因となることが多いのですが、泡沫細胞やマクロファージの死骸が血管壁に沈着して、このタイプの動脈硬化を起こします。

 

 動脈硬化の予防のためには、LDLコレステロールを増やしすぎないこと、そして活性酸素による酸化を防ぐことが重要になります。

 

 LDLとがんとの関係でいえば、マクロファージが身を挺して酸化LDLを処理すればするほど、マクロファージの数が減り、免疫の働きが低下します。マクロファージやナチュラルキラーは免疫細胞の中でも、がんを攻撃する中核的な存在です。ふだんから体内を巡って「がんの芽」をつぶす働きをしていますから、その数が減るということは、体をまもる防衛隊にとっては大きな痛手になるのです。

 

 動脈硬化で末梢の血液循環が悪くなると、免疫系の細胞がすみずみまで行き届かなくなり、それにともない、免疫の網の目をくぐって成長する「がんの芽」が増えていきます。

 

 そこで、がんの予防という面でも、動物性脂肪をとりすぎてLDLコレステロールを過剰にしないこと、抗酸化食品でLDLの酸化を防ぐということが重要になってくるのです。

がん再発を防ぐ完全食:済陽高穂著より