2014-10-18から1日間の記事一覧

スターは企業に残らない

ひとつの異様な事実がある。画期的な医薬の創出に中心的な役割を果たした研究者が、何人も会社を中途退職しているという、他の業界では考えられない現象だ。 メバロチン、リビドール、クレストール、プログラフといった超大型医薬の生みの親は、いずれも定年…

「一万五〇〇〇円」の報奨金

グーグル社が、公式の職務に使う時間を八〇%に抑え、勤務時間の二〇%は新しいチヤレンジに充てるべしという社内ルールを定めているのは有名だ。変革期にある製薬業界にこそ、この「二〇%ルール」は最も必要なことであるはずだが、もはやその余裕は失われ…

 厳格化する安全基準

バイオックス事件の衝撃は、臨床試験中の新薬の承認にも大きな影響を与えることになった。特に米国FDΛは極めて審査が厳格になり、承認確率がぐっと落ちた。それまでであれば既存の医薬と少しでも違った点があり、それなりに有効なものならば認可されていた…

 名門メルクの蹉跌

企業の評価基準には、売上・従業員数・株式時価総額・社会貢献度など様々な尺度があり得る。もし、製薬会社の中で「最も尊敬される企業」という一見曖昧な尺度でアンケートを取ったらどうなるか。 恐らく衆目の一致するところ、それは米国のメルク社となる。…

 新技術の限界

もちろん新技術の間発も絶対に必要なことではある。しかし結果から見れば、HTS・コンビケム・SBDDなどは、残念ながら創薬を根本から変えるほどの新技術にはならながった。 コンビケムは多数の化合物を一挙に作り出せるが、多種類のパーツを同時に連結…

難病だけが残った

医薬のターゲットとなりうるタンパク質もすでに検討が進み、有力と見られる標的は少なくなっている。以前は手掘りでも簡単に金塊が見つかった金鉱は、数十年でほとんどを掘り尽くしてしまい、強力な探知機や掘削機械を使ってさえなかなか鉱脈にたどり着けな…

医薬品産業の未来はバラ色

そう信じた人は多かった。筆者の手元のノートには、当時(九〇年代中盤)バイオテクノロジー分野で大きな影響力を誇った、あるジャーナリストの講演記録が残っている。 彼は自信満々に、医薬品産業のバラ色の未来を説いた。今後十五年で、ゲノム創薬をはじめ…

合併の功罪

企業文化・人事制度・給与水準など、何もかもが異なる二つの会社が歩み寄り、新しい会社を作っていくという作業は、社員に膨大なストレスをもたらさずにはおかない。各社で合併が行われていた当時、筆者はたまたま組合役員をやらされていたためあちこちの会…

アメリカの薬価は世界一高い

ただしこのシステムは、弊害ももちろん多い。薬で命をつないでいる患者にとっては、どんなに高い薬価だろうと支払う他はないから、法外な価格がついている薬も存在する。例えば、特殊な白血病の画期的な治療薬として話題をさらったノバルティス社のグリペッ…

数字と感情のあいた

副作用の間題について、科学の立場からの見方を述べてきた。 科学で扱うデータは、死者何人、発生率何%という血の通わない数字だ。しかし実際に副作用で苦しむのは、あくまで生身の人問だ。イレッサの例では「副作用を恐れるばかりでは進歩はない」と書いた…

 「飲み合わせ」という落とし穴

ウナギに梅干し、天ぷらに氷水といった、食べ合わせのよくないものは昔から数多く言い伝えられている。深い科学的根拠はないものが多いとされるが、薬の場合「飲み合わせ」というのは大きな間題を引き起こしうる。専門的には「薬物相互作用」と呼ばれる現象…

なぜ南アでエイズが蔓延したか

医薬の持つリスクに過敏になり、大きな弊害をもたらしている極端な例として、南アフリカにおけるエイズ政策がある。同国は国民の二〇%近くがHIV(ヒト免疫不令ウイルス)に感染しているといわれ、世界で最もエイズの流行が激しい国となっている。何より…

毒と薬は紙一重

抗ガン剤による副作用は、一般にもよく知られているものたろう。抗ガン剤の多くは、DNAを破壊するなどの形で細胞分裂を食い止める作用を持つ。これによってガン細胞の増殖を抑える目的だ。しかしこの時、抗ガン剤は同じく盛んに分裂している正常細胞にも…

バイアグラは偶然の産物

臨床試験で人体に投与して初めて見つかる作用というものは数多い。大半は好ましくない作用が見つかってドロップになってしまうケースだが、中には思いも寄らぬ効果が見つかって、別の種類の医薬として花開くケースもある。 有名なのはバイアグラの場合だ。こ…

特許をめぐる熾烈な争い

創薬研究には科学研究としての側向もあるが、一面厳しいビジネスの世界でもある。学間的にいかに優れた仕事をしても、他のメーカーに一目でも早く特許を出されてしまえば全ては無に帰す。特許こそは医薬品産業の生命線たが、創薬研究に様々な足かせをはめる…

新薬を創れる国は十ヶ国に満たない

晴れて動物実験で有効な化合物が出てきても、またこれで終わりではない。医薬品には様々なレベルでの安全性が求められる。当然致命的な毒性や発癌性があってはいけない。また薬物が体内へ蓄積してしまうと思わぬ副作用につながるから、きちんと一定時問で排…