新薬開発の成功率が低下した理由


欧米には売上高4兆円を超えるファイザーグラクソ・スミスクラインなどのメガファーマが存在します。これらのメガファーマは、従来からのビジネスモデルを維持することが難しくなっています。

現在は新たなビジネスモデルを模索し、次の段階を目指すための変革期と言えるかもしれません。メガファーマの神髄は巨額の研究開発費とマーケティングコストを使い、コンスタントにブロックバスターを市場投入し規模を追求することです。新薬開発とマーケティングは走り続けるために必要な両輪なのですが、この両輪に異変が生じたのです。

まず憂慮すべきは、新薬の研究開発の生産性低下です。

ブロックバスターが以前ほど出てこなくなったのです。

PhRMA(米国製薬工業協会)とFDAの統計によれば、米国内における医薬品企業の研究開発支出は増加しているにもかかわらず、FDAによる新薬承認件数は1998年の53件をピークに年々減少しています。この傾向は日本と欧州でも大きくは変わりません。世界的に、研究開発費が上昇する一方で新薬開発の成功確率が低下しているのです。

この要因については諸説ありますが、複数の要因が関係していることは確かです。
① 消化性潰瘍や高血圧、高脂血症など患者数が多い生活習慣病は、既存の薬剤で一定水準の治療効果をあげられるため、新薬は既存薬を上回る効果を示さなければ承認されない。
② がんやアルツハイマー認知症などのアンメット・メディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い領域では、医学や診断技術の進歩などによって新薬がクリアしなければならないハードルが高くなっている。例えば、今日の抗がん剤には腫瘍縮小効果による予後の改善のほかに、患者の生存確率や延命率を示すエビデンスが不可欠となっています。そのためには開発段階から多数の患者を臨床試験に組み入れたり、市販後であっても追跡調査が必要とされます。いずれも研究開発費の増加につながる要因です。
③ 研究開発が組織化されハイスループット・スクリーニングなどの普及でテクノロジーに頼りすぎたため、いわゆる目利きができる研究者が少なくなった。
④ 特定の薬剤に関する副作用が大きな社会問題となったため、医薬品全般の安全性に対する懸念が急速に高まった。そのためFDAなどの新薬の審査当局が慎重になり、安全性を担保するための追加試験の実施や、承認に必要な基準値を引き上げたため、新薬の開発中断や承認の遅れが目立つようになった。
⑤ 欧米のメガファーマがブロックバスター志向を強めた結果、市場規模は小さいが有望な新薬候補が切られたり、予算がつかずに優先順位が下がったため開発中止に追い込まれたプロジェクトも多かった。ブロックバスターは大きな市場をターゲットにするが、必然的にそこには多数の患者が存在するため安全性に対する担保も厳しくとられる。安全性に対する懸念の高まりとともに、ブロックバスターへの評価も厳しくなったと言える。