塩野義製薬


塩野義製薬は2008年9月に米サイエル社を約14億度のTOB(株式公開買付け)で買収しました。サイエルの買収は米国における販売機能獲得を狙ったものです。将来的にサイエルの販路に加わる塩野義製薬の新製品は、フェーズⅡ段階にあるアトピー性皮膚炎治療剤「S-777469」、アレルギー性疾患治療剤「S-555739」、などが候補です。
 しかし、早くても2012年度以降に出てくる新薬です。米国での自社品の単独販売へ布石としたわけですが、現時点で販社機能の買収が本当に必要であったかどうか疑問です。
 塩野義製薬の課題は、抗生物質中心の国内医薬品事業の立て直しと、新薬開発パイプラインの梃入れです。塩野義製薬の2007年度営業利益404億円に占めるアストラゼネカからのクレストールのロイヤルティー収入は298億円、実に74%に達しています。
 このロイヤルティー収入は、2012年度には700億円台まで増加するという予想もあり、塩野義製薬の最大の収益源であることに変わりはありません。クレストールの物質特許が有効な2016年までは、こうした巨額のロイヤルティー収入を見込めます。其れまでにクレストールに代わる収益源を探さなければ時間切れとなります。
 塩野義製薬のベストシナリオは、国内は今後数年間に発売する導入品で乗り切り、海外は高肥満剤「S-2367」などの自社開発品の導出でつなぎ、将来は自販体制へ移行することです。
 アストラゼネカはクレストールの全世界の開発販売権を塩野義製薬から取得していますが、2005年に塩野義製薬は国内市場でのクレストールの共同販売権を取得し、1ブランド2チャンネルで販売することに成功しました。
 クレストール以外では、降圧剤イルベタンを2008年に発売、2010年頃にすでに米国でイーライ・リリー社が販売している抗うつ剤デュロキセチンを発売する予定です。すべて導入品で自社開発品と比べて採算性は劣りますが、国内事業を立て直すための有力物質です。
 ただし抗生物質の採算改善は難しく、新製品の利益寄与が見込めてもクレストールに依存する片肺飛行が続く可能性があります。海外のメガファーマへの導出を予定する抗肥満剤「S-2367」や抗HIV剤「S-349572」等に期待するのは時期尚早ではないでしょうか。
 優先すべき課題の順位は、国内事業の立て直し、新薬開発パイプラインの充実、海外事業への取り組み、です。サイエル買収を否定するわけではありませんが、買収のターゲットとしては新薬候補を持つ海外バイオベンチャーなどを狙うべきでしょう。
 さらに海外事業は。すでに関係が深いアストラゼネカと全面提携し、塩野義製薬は国内事業と新薬の研究開発に特化する戦略を考えるべきでしょう。もともと塩野義製薬は他社を凌ぐ国内販売力と研究開発力を保持していたわけであり、過去の栄光を取り戻すことは十分可能であると考えられます。